過去の苦手、その今は?
ダルク後援会 山谷千尋
ふと思い返すと、小生の医学生時代は不真面目を絵に描いたものでした。単位認定試験では、毒性学(物質の生物への悪影響を研究する学問)、薬理学(薬物の効果効能・メカニズムを研究する学問)、病理学(病気を顕微鏡で診断・分析する学問)など、他は割愛しますがキリがないくらい見事に落ちました。当時は今と違い、試験に落ちても何とか進級させねばならないという大学側の慈悲とも言える責務から、受かるまで再試験が行われました。病理学に至っては再試験3回目で合格、というより教授の恩赦でした(「仕方がない、赦してやる」と言われた)。座学のみならず実習なども苦手意識が強かったので学問から逃避していましたから、劣等生であったことは想像に難くないと思います。そんな出来損ないの小生が医師9年目で書いた博士論文がまさかの病理学の内容でした。学生時代に顕微鏡を覗いても何一つわからなかったにも関わらず、手前味噌ながら著名な海外医学誌に論文を載せてしまいました。更に毒性学や薬理学では、危険薬物のことも勉強しなければなりませんでしたが、「薬」の勉強に対しても理屈の理解がままならず苦手意識が強かったことを覚えています。毒性学の再試験も教授とのマンツーマンでの口頭試問で、「毒物と薬物の違いは何ですか?」とまさに毒性学の根本とも言える初歩的な問題を聴かれました。何と答えたかは全く記憶にありませんが最終的にやはり赦しの合格をもらいました。そんな私が覚醒剤、大麻をはじめとする違法薬物や、地球上の多くの生物にとって猛毒物質であるアルコールの乱用・依存についての診療をしている今を想うと、「苦手とは一体、何?」と考えざるを得ません。ちょっとした先入観・思い込みなだけで、人というのは時が経つと忘れた様に苦手ではなくなっていたり、逆に以前は得意だった物事がいつの間にか敬遠するようになっていたりするのかもしれません。これらがただの運命なのか、それとも成長なのか、はたまたコンプレックスを長い年月をかけて埋め合わせようとしているだけなのか?など、色々な可能性を考えてしまいます。名古屋ダルクの皆さんは、日々ランニングや筋トレ、ボランティア活動、人付き合い(苦手な人とも)、スピーチ、就労など回復プログラムとしてではあるものの以前は苦手だった事や、やろうとせずに避けていた物事を敢えてやっています。それもいつの間にか、マラソン大会に出場する、大勢の前でスピーチするなど、苦手を克服するのみならず、多くの一般の人が生涯経験することもなく、やろうともしないことを得意とも言えるレベルにまでなっていたりします。そこに人間としての成長を強く感じますし、回復のヒントもあるのだろうと思料します。皆さんも、自分の「過去の苦手と今」を色々と身調べしてみると新たな発見があるかもしれません。
追記:小中学生の頃、夏休みの読書感想文をはじめ作文全般が大嫌いすぎて期限になっても毎回提出すらしなかった小生ですが、現在はこのニューズレターを毎回好き勝手に楽しく書いて寄稿させていただいています(笑)。
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