2025.04.05|ニューズレター

バックナンバー 2024年 クリスマス号

  恥を知れ!

山谷千尋猛暑の名残のように暑さが長引き、秋は来たのだろうかと思った矢先に気温の急降下で涼しくなり身体の不調を来たす人も多かったかと思いますが、皆様は元気にお過ごしでしょうか。11月30日開催の名古屋ダルク35周年感謝祭、僭越ながら私も拙いスピーチの時間をいただきました。今回はその補遺として、過激なタイトルをお許しいただき、最近私が依存症について気になる「恥」につき徒然なるままに書かせていただきます。

中井久夫先生というご高名な精神科医がいらっしゃいます(故人)。精神科医に転科した当初、指導医もおらず精神科診察の方法も何もかも分からなかった私は、先生を勝手に師と仰ぎその著書を読み漁って多くを参考にしました。先生のご専門は統合失調症で依存症などは片手間ほどだったと推測しますが、アルコール依存症に対しての考察記事がわずかながらありますので、ここに(無断)改変引用させていただきます。

〜困り果てている(アルコール依存症の)家族が治療に協力的な時は、「言うのは簡単でも実際にやるのは難しいのですが一つだけお願いがあります。決して本人に恥をかかせぬことです」と伝える。患者は一般に辱めに敏感である〜

恥をかかせないことがアルコール患者への診察・対応では最重要だと約40年前の記事にあります。依存症者の多くは「完璧主義」、「実は臆病」、「人に受け入れられたいが不器用」、「嘘、隠し事」などの特徴があることは近年でこそ広く認識されていますが、これらに通じる鍵概念として「恥」があるのかもしれません。完璧な人間はどこにもいませんし、誰でも恥ずかしくて隠したい部分があるのは当然ですが、依存症に陥る方はこの「恥ずかしさ」に極度に敏感で恐れる人達だと先生は指摘しています。「恥をかけないので完璧を求める」、「恥をかけないので臆病」、「人からよく見られ、認められるために恥をかけない」、「恥ずかしい部分を隠すために嘘をつく」といった心理でしょうか。そうだとすれば、この「恥」をとにかく他人に見せない様に必死になる生き方が「生きづらさ」の根底にあるタイプの依存症の方には、その「恥」の改善・克服こそが依存症の回復に必要かつ近道かもしれません。「恥をかきなさい」という類の人生訓が巷にはありますが、誰でもそんな簡単にできるものではありません。しかし、これを普段から少しずつ訓練できる場があります。それこそ自助グループなどのミーティングです。薬物・アルコールの話に限らず自分の弱点や失敗談など本来は人に言いたくもない恥ずかしい話を誰からも批判されることなく本音で語れ、むしろ同じような経験をしてきた人からは共感さえ得られる極めて特殊な場です。恥ずかしい本音部分を人前に晒すと、他人に嫌われ遠ざかると人間は直感的に感じるためにそれを隠そうとし、時に嘘をつきます。しかし、実際はその逆、隠し恥ずべき真実を語る不完全さの中に人間らしさを聴く側は感じとり、安心と信頼が生まれ人と人との心は近づきます。恥ずかしいことを隠さず正直に語ることで、他人から嫌われるのではなく受け入れられるという実感で「恥」を徐々に克服していく、自助グループの効能の一つだと思います。「恥を恐れず本音を語る」これは依存症者に限らず、誰にでも当てはまる人としての成長、成熟方法と考えられます。

依存症の方が、普段の些細な失敗談などをそれこそユーモアや笑いを交えて気軽に話せるならば、「回復」に向かっているのかもしれません。少なくとも、私は患者さん達の依存症回復の指標にしていきたいと思います。

※「恥」につき異論、反論、ご意見などあれば是非お聞かせください。次回号で来年もお会いしましょう。それでは良いお年を!

                                 山谷千尋

Contact form

お問い合わせ

ホームページをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。ご質問・ご相談などございましたら、お電話・お問合せフォームからお気軽にお問合せください。

tel. 052-915-7284
電話受付/
平日 9:00~17:45 土祝 12:00〜17:00