「種蒔き」
ダルク後援会代表 竹谷基
「縁は異なもの味なもの」、先日、「縁」に恵まれたと思わず感謝したことがありました。私事で恐縮ですが私は7月中頃、原因不明の喉の痛みから体がえらく早く休みました。悪い方へと思いが先走り癌の痛みが強くなったのかと懸念しました。翌朝まで不安と喉の痛みに悶々としていました。すると知人のAさんから電話掛かってきました。コロナに感染したかもしれないからと受診の勧めでした。Aさんは長年世話をしていただいている方です。電話で次のように語ってくれました。「早朝いつものように近所へ散歩に出かけたら、見かけたことのある方が散歩しているではありませんか。幸いと声をかけました。(その方は私の糖尿病の主治医の連れ合いさんでAとは古くからの知人Bさんでした。)私の症状を話したところ、夫のクリニックでPCR検査しているから受診に来るようにと言われたのでした。また来月からコロナの内服薬がめちゃ高くなるから早く来た方がいいとも、と教えてくれたそうです。その方はいつもの散歩ではここまで来なく途中で引き返していたが、今日は何故か足を延ばしここまで来たそうです。」私は早速受診、検査を受け、その場でコロナの陽性と判定され、服薬し痛みも収まり、気が一変に楽になりました。この縁は何と言うのでしょう。偶然が重なり、あれよあれよと言う間に心身共に癒されたのでした。その出会いは偶然でしたが、必然でもあったのです。そもそも初めの出会いがあったからこそ、その繋がりが廻り廻って縁が生じたのです。人とはそのよう出会い、有形無形の繋がりが出来て生かされているのでしょう。そもそも人間に与えられた生態系は言わば縁の世界、生命を産み、育み、次世代に繋がる営みはすべて縁と言えるでしょう。生態系のどれを欠いても生命は生存できない、つまり宇宙は他者を生かす秩序、繋がりのことではないでしょうか。とまあ、「良い縁」に恵まれて、コロナによる外出自粛の10日間私はそんなことを巡らしていました。翻ってみれば、私の生命、人生はその生態系において今日まで生かされていたのです。まさに感謝しかありません。ところが、日頃はその恩を忘れ傲慢利己的になり他者を傷つけてしまうばかりです。救われがたいですね。
さて、新約聖書の福音書には『種蒔き』と呼ばれる譬えがあります。農民たちに「神の国」はいつやって来るのかと問われたイエスの返答です。イエスは農民たちの日々の働きに見えるよと答えたのです。農民たちには当たり前のこと。種を良い地に適切に蒔けば天の父が実を必ず数十倍にもならせてくださることを。「神の国」とは生態系を意味しているのです。「良い地」とは神が雨を降らせた恵み多き地のこと。と言うのは、パレスティナは古代オリエント世界では唯一の雨の降る地です。その農業は「上の水」天からの雨、神に依存するしかない農業でした。※① 農民たちは、神はその豊かな地を元難民として古代オリエント世界を彷徨っていた先祖ヘブライの民たちを導き、奴隷ではなく自由人と生きるようにされたことを信じていました。他方、古代オリエント世界では降水ではなく
大河、「下の水」、つまり王を頂点とする巨大な権力機構を持った大帝国に依存する農業だったのです。農民は「王」の奴隷としか生きられなかったのです。ところがパレスティナのガリラヤでは誰でも人間として生きられるよう神は恵み豊かな地を備えられたのです。人間は神の恵みに適切に答えることによって、神は人に自由と人権、豊かに食物を与えられるのです。しかしながら、歴史の進むにつれて、ガリラヤの農業は大規模大経営となり、豊かな土地は経済利益第一の搾取と収奪の地になりました。その結果貧富の差甚だしくなり、農民は農奴化されました。神の恵みへの人間の適切な応答は忘れ去られたのです。イエスの登場は農民たちのその圧政からの神による歴史への介入、「神の国」の到来を期待し歓迎されました。イエスにとってガリラヤの地は「明日を思い煩う」ひつようのない「空のカラス、野の雑草を」養い装わせる「神の国」です。世の終わりに到来を待ち望む農民たちの熱狂に対しイエスは既にある「種蒔き」こそ「神の国」ではないかと語ったのです。冒頭の「縁」は命を生かそうとする生態系の「すべてを生かそうとする」意志と同じではないでしょうか。「種蒔き」はそれへの人間の適切な応答ではないでしょうか。
ダルクは悩める薬物依存者に声をかけ、「種蒔き」し共に回復の道を歩む仲間、「縁」を繋ぐ場です。回復途上の仲間と共に大いなる力を信じて必ず回復するとのメッセージを伝えて、「種蒔き」を日夜続けています。どうか、みなさま、ダルクの働きがより実りますようにご声援を給わりたいと願います。残暑厳しい折、お体を大切にお過ごしくださいますようお祈り申し上げます。
※①参照:太田道子「上の水と下の水」『ことばは光1』㌻164~167。新教出版
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