2025.01.31|ニューズレター

バックナンバー2023年夏号 竹谷神父様(元ダルク後援会代表)

「人多すぎる」

元ダルク後援会代表 竹谷基

さる4月7日 NPO 法人名古屋ダルクの理事長柴真也さんが心不全のため帰天されました(享年 52 歳)。早すぎ るお別れに言葉を失いました。謹んでお悔やみを申し上げます。私との出会いは定かではありませんが 1994 年 頃だったと思います。名古屋ダルクの前責任者外山憲治さんから、はじめの「一歩」と紹介されました。以来、約 30 年名古屋ダルクを通して教えられて来ました。天国での永遠の安息をお祈りします。

さて旧約聖書には古代イスラエル人が、常に自分たちとは何者かを歴史を振り返り、今日の恵まれた境遇へ導 かれた神を讃えるための『信仰告白』と呼ばれる箇所があります。(参照:申命記 26・5-9「わたしの先祖は、滅びゆく一 アラム人であり、わずかな人を伴ってエジプトに下り、そこに寄留しました。しかし…エジプト人はこのわたしたちを虐げ、苦しめ重労働を課 しました。わたしたちが先祖の神、主に助けを求めると、主は私たちの声を聞き、わたしたちの受けた苦しみと労苦と虐げを御覧になり、力 ある御手と御腕を伸ばし、大いなる恐るべきこととしるしと奇跡をもってわたしたちをエジプトから導き出し、この所に導き入れて乳と蜜の流 れるこの土地を与えられました。」)

この『信仰告白』を唱えた場は年一回の収穫祭と言われます。大地の実りを祝う度に、彼らは自分たちの生命 も大地も収穫物も神の賜物であり、そのすべてを生かし続ける神の計らいを驚嘆し畏敬しました。この神への畏 敬と感謝を忘れるならば、再び、利己主義となって他者を差別搾取する格差社会に戻り、王国の滅亡、バビロン 捕囚、離散の苦難を味わうことを歴史から教えられています。だからこそ、古代イスラエル人は収穫祭毎にその 『信仰告白』を朗唱し神の慈しみにより「生かされている」こと、それ故に他者を大切にし、共生を肝に銘じることを 定めました。その目に見える徴として感謝祭では神に供えた収穫の初物を困窮者と分け隔てなく会食したとありま す。

神の計らいとは「宇宙万物の誰も置き去りにしない」すべての生命を生かす働きです。遊牧民や奴隷のような最 下層であった古代イスラエル人の先祖は王国から虫けらのように人権、生命を奪われていました。しかし、神は彼 らの滅びを看過できなく、立ち上がらせ、土地に導き、太陽を上らせ雨を降らせ、実をならせられるように人々が大 切にし合い、感謝し合い協力して命を生かし合うようにしました。しかしながら、今日まで人間は生命の与え主であ る神の心に背き、生命も自然も自分の所有物と勘違いし他者の生命、環境を利己的に奪い続けています。 古代イスラエル人では神から頂いた土地を数百年の長い間耕作し続けやっと豊かな生活を営めるようになりました。 すると、隣国がその富を略奪しようと侵略戦争を度々仕掛けました。その度に、常備軍を持たない古代イスラエル人 の共同体(国家ではない)は築き上げた富を奪われました。あるとき圧倒的兵力を持つミディアン人の侵略戦争では 共同体を守るためギデオンの名の人が神から選ばれました。ギデオンは軍人ではなく弱くの貧しい農夫でありました。 ですからギデオンはイスラエルを救う力はないからと神に固く辞退しました。神はギデオンに「わたしが共にいる から」と説得しました。納得しないままギデオンは農民からなる兵隊を率いてミディアン人と対峙しました。すると、

神は「人が多すぎるから減らせ」と言いました。まず1万2千の農民が帰り、1万人が残こりました。ところが神はまだ 多すぎると更に農民兵の人数を減らすようギデオンに要求しました。結局残ったのは、僅か300人となりました。 ギデオンにはミディアン軍の圧倒的兵力と装備があるにもかかわらず、神の無茶苦茶な要求に不信に陥りました。 神はイスラエルを敵に売ったのではないかと。けれども、神の命じた作戦によってギデオンは敵から大勝利を得ら れました。(参照:士師記6~7章)

この物語『人が大すぎる』は何を意味しているのでしょうか。歴史を導くのは神であって人間ではないとうことで しょう。困難の解決は人数、つまり、力・富・知識に頼ってはならないということ。(「あなたの率いる民は多すぎるので、ミデ ィアン人をその手に渡すわけにはいかない。渡せばイスラエルはわたしに向かって心がおごり、自分の手で救いを勝ち取ったというであろ う。」同7・2)「国破れて山河あり」、「栄枯盛衰」、「盛者必衰の理りをあらわす」の言辞が示すように大宇宙の営み、 万物を生かす働きは人間の営みを飲み込んで遥か前へ進んで行きます。人間の幾度となる破壊殺戮によっても 大自然は悠久の時をかけて再生して行くのではありませんか(と言って現在の暴力を肯定するのではありません)。 権力、武力を頼りにする限り人は傲慢になり他者を犠牲にして、己の欲望を肥大化して限りなく求めて行く今の在 り方の転換への呼びかけ、大宇宙の他者を生かす働きに参与し英知を尽くすべきとの忠告ではないかと思いま す。

その課題、つまり、万物を生かす働き、「誰をも見捨てない」生き方に果敢にも一歩前へしかもたった一人で足 を進めたのはナザレのイエスでありました。後に彼の周りには師と仰ぐ弟子が集まり、二千年後の今も数や富に 頼らない小さな一人ひとりの働きです。

「一歩」と呼ばれた真也さんもまたその一人ではないでしょうか。師であるケンさんを継いで 2004 年から名古屋 ダルクを今日まで引っ張って来ました、まさに「依存症」から自律への回復の道だったのでしょう。開所当初毎月の 家賃の工面さへままならぬ貧乏ダルクを孤軍奮闘し、回復途上の仲間を職員にするまでの施設にしてきたのは、 真也さんの『依存症』は必ず回復するとの熱意と信念によると思います。名古屋ダルクは一歩先へ進んだ真也さ んの後に続き「誰をも置き去りにしない」新たな一歩を踏み出すことを天国の真也さんに約束いたします。

どうか、みなさま、名古屋ダルクへ今後とも暖かいご支援をくださいますようお願いいたします。

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